ライナーノート


序文

 ヴァルシュトレイの狂ひょう。それは全人類の未来をかき乱す大嵐。
 ……といった感じでワリと重々しく始まる本作は、かつてない物量で攻めてくる敵をかつてない火力で薙ぎ払う、かつてない面白さを秘めたシューティングゲーム。我々が目標に据えた第一義は、これまたかつてない爽快感で、誰もがそれを「いつでも手軽に」体験できること。SFアニメなんかによくある一騎当千の超兵器で、敵の大群を一気に葬り去るアレ。あれが自由にできたら楽しいだろうなあ! と、そんな着想から始まったことをよく覚えています。
 この企画。シエスタ内部で持ち上がったのはなんと10年前。TWよりも歴史が長いのです。当初はヴァルシュトレイの輝閃(きせん)という名前で内容もコミカルでした。なんて名前かは忘れたけど、今の美穂さんにあたるキャラはとっても陽気なSTGゲーマーという設定でしたね。そのほか、アメリカ、インド、ロシアといったキャラの出自も今とおんなじで、各キャラデザイン自体もそんなに変わらなかったと思います。
 しかしその後、開発がTWに傾倒することとなり、ヴァルシュトレイの輝閃はいったんお休み……のつもりがTWAC、TWNと、TW製作づくしの毎日が続きました。おかげでヴァルシュトレイのプロジェクトが再度動き出すのには五年を要することとなったのです。いや、もちろん本業をこなしながらの同人活動ですからね、どうしてもこんなに時間がかかるのですね。うちはスタッフも少ないしお金もたくさんあるわけじゃないし……なんて言い訳はともかく、休止中だった五年の間にSTGエンジンの仕様やゲーム内容の構築、キャラクターや世界観の設定も一新し、タイトルも今のヴァルシュトレイの狂ひょうとなりました。そして2012年の11月にティザーサイトをオープンし、スタッフの愛と情熱も十分、満を持しての製作再開です。
 それからずーっとデータリソースづくり。我々制作が一番楽しむべきファクターですが、これもまた、本業との兼ね合いで遅々としてうまく進みません。本業同人の辛さって、こういうところにありますよ。うまくいかずに何度もくじけそうになったし、犠牲もないではなかったし、問題も山積しました。それでもあきらめずに毎日コツコツと絵を描いてテキスト作って組み込んで……そうそう、シナリオの音声収録は三年前に終わっていたのです。素晴らしい演技でご協力をいただいた声優の皆様、お待たせして本当に申し訳ありませんでした。
 そんなこんなでさらに3年が経ち、2015年の7月、いよいよ機会に恵まれます。制作はここから一気にスパート。バラバラだったデータをつなぎ合わせ、ゲームがばんばん動いていきます。ゲーム屋にとってこの瞬間ほどエキサイティングなことはありません。そして調整調整また調整。徹夜に次ぐ徹夜の末にようやくできたプロトタイプを見てもまだ納得できない! そんな感じが最後まで続いたおかげで広報は破たん。やり遂げたはいいものの、発売前日までムビも出せないとは一体誰が予測できたでしょーか!
  ……主な原因は自分が去年、長期入院したことでしょう。ディレクター不在の現場は混乱し、病院で打ち合わせすることもしばしば。みなさんぜひとも健康には気を付けましょう。ともあれ自分に残されたリソース製作業務は楽曲。他のことはなんとか入院前に終わらせておけたのはいいものの、この楽曲がなんと20曲以上というゴージャス仕様。そのうえ書く期間は残り30日くらいしかなく、病室に音楽機材の持ち込みを相談しても相手にされず、なんとか無理やり退院したその日から徹夜になったのも已む無しといったところでしょう。すんなり痩せられたのが不幸中の幸いですw
  本来、語るべきは作品そのものの役目であり、製作者があとからあれこれしゃしゃり出るのはお門違いでありますが、それでも、こんな切り口からでもヴァルシュトレイに興味を持ってもらえれば幸甚であると考え、ここにライナーを記させていただきます。……が、やっぱりこういったものを作品性へのノイズとして捉えられる方もいらっしゃるかと思います。そういう場合は適当に読み飛ばしちゃってくださいね!
 本作はゲームの爽快感もさることながら、並行して綴られるストーリーも大変充実しており、且つ、奥深い。孤独な美穂やプシュパの運命、タチアナとの確執、そしてソローの赫々たる活躍など、単なるドンパチにとどまらないヴァルシュトレイの物語を可能な限り彩れるよう、自分の思うすべてを楽曲に込めてあります。僭越ながら、自分にとってのゲームミュージックとはその名の通り、ゲームの場面を構成する大事な一要素。鑑賞曲とも劇伴とも違う、ゲームならではの音楽。そのゆえに間違いの無いよう、作業前には必ず、出来る限りの構想を行います。といっても、弊社のゲームは大概、テキストも自分が担当させて頂いているので、結構やりやすかったりしますけどね、いやはや。
 それでは前置きはこの辺にして、もう遊んでいただいた方もそうでない方も、今一度ゲームを起動して、一緒に楽しんでもらえれば幸いです!
miho_seifuku

taitle01

 ヴァルシュトレイの狂ひょう。それは全人類の未来をかき乱す大嵐。
 宇宙の真っ暗闇で煌々として輝くヴァルシュトレイ。このヴァルシュトレイっていうのは「宙域」の名前です。そして狂ひょうとは、荒れ狂う渦のこと。つまりヴァルシュトレイという場所にある渦ってことですね。といってもその直径は五億キロにも及び、中心部はリギルケンタウリの強烈な紫外線で完全に電離しています。正体はだれにもわかりませんが、HⅡ領域に似た特性を持つ高温高密度のガスの中からは、敵である機械構造体がわんさか湧いて出てきます。まさに悪の元凶であるのはとりもなおさず、人間が立ち向かうにはあまりにも強大な暴威であり、全人類の恐懼を収攬するその姿はまるで魔王が顕現したかのよう。そんな畏怖の念が幾重にもなって押し寄せてくるよう、かわるがわるも淡々と、マイナーコードばかりが鳴り続きます。

taitle02

 宇宙へ散ったすべての勇者のために必要なのは、ミサでもレクイエムでもない。使命に捧げたその壮絶な生きざまに対する敬礼のみ。だって彼らは生きている。まだ戦うべき者たちの心の中で、より輝きを増して……。
 戦ってでしか勝ち取れない未来のために軍人はいる。なればこそ彼女たちにも、その使命を果たしてもらわねばならない……と、オレリアさんを説き伏せるレオンティーナでクリアした後、タイトルはこの曲に代わります。たくさん遊んでくれたプレイヤーへの隠し要素の一環として組み込んだ仕掛けですが、最終的にはタイトル1のほうがレア曲になるという。
miho_yokogao

mainmenu

 地球上空4万キロは戦争と平和の境界線。そこで今日も今日とて宇宙の闇を監視し続けるオービタルステーションの、つかの間の安息。機械構造体との戦闘がない時、美穂さんら戦闘機乗りたちは皆、自室の窓を青く照らす眼下の地球に目を細めながら、各々身体を休めています。

taitle02

 なにとはなしに慌ただしいハンガー。格納されているAEDRA522F戦闘機は、オペレーションヴァルシュトレイのためにカスタマイズされたワンオフモデルで、その戦闘力はまさに一騎当千。
thuoreau

select

 いよいよ始まる前代未聞の作戦に胸の内を逸らせる戦闘機乗りたち。
 復讐の時に気炎を上げる者。
 己が使命に燃え立つ者。
 恐るべき秘密の任務を帯びる者。
 自らの弱さを捨てに行く者。
 鼓動の高ぶりに弾む各々の胸にはそれぞれの想いが満ち溢れ、それはやがて清冽なる闘争心へと変換されていく。恐れるものとてもはやない彼女たちの運命やいかに!?

pro

 歩いてきたのは闇の中。振り返ればたちまち道は閉ざされ、そして眼前に光はない。 生来、宇宙の暗黒に囲まれている地球人類は皆、そうして生きているのだ。一寸先は闇。 行く末を見通すことなど、誰にもできやしない。
miho_def

st01

 賽は投げられた。美穂さんが隊長を務める第21独立戦闘遊撃隊はエイレーネのステーションを飛び出し、ほどなくしてL1ラグランジュ点の重力アシストブイを旋回。同時に対消滅エンジンを起動したAEDRA522Fたちは秒速1万5千kmの超高速へ達し、火星軌道付近でひしめく敵の大軍勢をめがけて宇宙の闇を切り裂くのだった。
 通常、推進を対消滅エネルギーに頼るAEDRAは離着陸の際にのみ、予混合燃焼機関における液体燃料の燃焼エネルギーを必要とします。対消滅反応から得られるエネルギー量は核反応を凌駕する莫大なものであり、その危険さゆえに地上や基地上空などの人的区域においては、使用はおろか、作動させることすら禁じられているからです。
 当初、1面の曲を10面でリフレインさせるという演出で考えておりましたが、先に書いた現10面の曲のほうに「10面のイメージ」を詰め込み過ぎておりまして。1面で鳴らせていた開発中、自分だけにはず~っと違和感があって、STEAM配信の2日前、ディレクター権限で超ワガママ言って急きょ、この1面専用の曲を書かせてもらいました。プランナー以下、他の人は突如入ったこの曲のほうに違和感覚えていたよう+プログラマーさんホントにごめんなさい! なんですが、でもやっぱ、思ったからにはやらないとダメなんです。それがものつくり日本!あのタイミングでの徹夜は正直かなりしんどかったのですが、そのわりにはわりとすんなりイメージ通りに出来たのでなんだか気に入っておりますね。ファミレスのモーニングを頂きながら、頭の中で必死に採譜していた思い出があります。
 そして特典のCDに収めることができずに誠に申し訳ありません! でもほら、こうして今回、48Kのベタデータアップさせて頂いたのでユルチテ!

 

 STAGE01 MUSIC
 TITLE: Sally out            ■ダウンロード■

boss01

 機械構造体は通常、少なくとも三百機からの軍勢を成し、その内訳として、行動ルーチンや攻撃特性の異なる十数の種別を同定できる。それぞれは得てして十機以上の同種による小隊として機能し、それらによって編成される緻密な隊伍の中心には、必ずプロダクト・コアが存在した。エイレーネの戦闘機乗りが〝デカブツ〟と呼ぶそれは、言葉どおりに特大の機械構造体で、これがすべてを操る司令塔であるのは他でもなく、今回とて例外なくいたそれが無残に火を噴いて爆発四散した今、美穂たちの勝利は確定したも同然だった。
 ……まあ、ボスですねボス。これぞ往年のSTGボス曲って感じにしてみました。
tatiana

st02

 当該作戦の第一目標である海王星までの航行距離は、木星と再接近中であっても38億キロ(作中では37.2億kmと述べられてますが、これ、停止に必要な距離の差分引いてます)と非常に遠く、7時間で到達するには光速のおよそ50%にまでAEDRAを加速させねばなりません。エンジンノズル内でマイクロサイズの対消滅爆発を繰り返し発生させることで、亜光速航行を実現するAEDRAであっても、その前段で可能な限りの高速を可能な限り効率的に達成するには、木星重力のスイングバイが有用です。
 しかし、通常航行で秒速1万5千kmを容易に達成できるAEDRAがなぜ、スイングバイなど必要とするのか。そんな速度じゃ木星重力なんて簡単に振り切っちゃうじゃん! ……なあんて、これはいわゆる航法の仕切り直しです。計算によりますと、背景である西暦2903年6月ころの各惑星間距離関係は以下の通り。

 

・地球火星間 ---- 3億5200万キロ
・火星木星間 ---- 5億5000万キロ
・木星海王星間 --- 37億9800万キロ

 

 と、おおむねこんな感じとなっており、この航行距離に見合った速度がいちいち必要とされるのです。秒速1万5千キロで木星から海王星へ行くとなれば、およそ70時間もかかる計算になりますからね、それこそ戦争終わっちまうってもんです。
 だからこそ木星上空で一度停止(止まってるわけではないです)し、別の航行方法へ切り替えるためにスイングバイを再度行う必要があるといった設定です。そしてこのとき、地球と火星と木星の位置関係はほぼ直線状を為しており、だからStage01のBGには無理やり火星が描かれてますね。ではどうやって月軌道から火星付近まで数時間で辿り着いたのか? これはアレです。重力アシストブイ……まあでも、そこあんまりツッコムのも無粋ですからこの辺で……アセアセ。
 なにはともあれ木星は、太陽系で最も熾烈な激戦区である海王星軌道へのカタパルト。巨大なその威容は地球のそれよりもはるかに強い磁気圏に包まれ、放射線帯の放つ高エネルギー電子にAEDRAの計器類も揺らぎます。戦闘機乗りなら誰もが一度は不安と畏怖を覚えるこの領域へ、美穂たちの部隊が粛々と突入するのであります……。

st03

 エッジワース・カイパーベルトは太陽系内戦闘における、いわゆる最前線であり、その策源地としての要衝である海王星上空基地は今日も今日とて、敵軍勢の猛攻に苛まれていた。折しもあれ到着した美穂がそれを眺めているわけもなく、独断専行を引き止めるソローの威喝をものかは、ライバルのタチアナと競い合うように戦場へと躍り出る。考え方もやり方も全く違う二人のトップエースはしかし、戦闘においては間違いなく超一流のプロフェッショナルであり、めいめい卓越した才気が阿吽の呼吸で合致したとき、その戦闘力は絶大にして無慈悲な暴威となって吹き荒れ、立ちふさがるもののすべてを薙ぎ払ってしまうのだった。
 仲の悪い美穂さんとタチアナさん。終始、ハナシのかみ合わない二人ですが、力を合わせるとすんげえ強い! というわけで、細かな音満載のダンスビート上に3連符のベースラインというカタチでギクシャク感を出しつつ、それでいてインクレディブルなイメージを出してみました。実は微かに鳴っているピアノが主題で、共通するところのほとんどない二人が唯一共有している目的意識をイメージしていたような気が……。本編では、後半はボス曲となって聞こえませんね。まあ、よくあることですし悲しくなんかない。最初は5/4とかの変拍子にしてもっとちぐはぐなイメージを出そうとしましたが、それこそ白〇っぽくなるのでやめました。
miho_nigawarai

boss02

 敵軍勢を率いるプロダクト・コア……いわゆるデカブツにも序列があり、その頂に君臨するのがストラクト・ルーラーである。ストラクト・ルーラーは最も大規模な機械構造体であり、通常、自身の周囲に無数のアクティブデコイを張り巡らせ、堅固な守備を為している。知性は虫程度で意思などを持たない……というのが最もポピュラーな形で敷衍する機械構造体の性質だが、周囲のプロダクト・コアをも率いる統率力は非常に高く、その辣腕の為す猛攻はまるで王者の威信をかけているかのよう。地球人類にとって目下最大の脅威であるのは言うに及ばず、発見次第、即時撃滅が戦闘機乗りに与えられた最上級の命令。
 3ステージごとに出てくるでっかいボス。強敵というか宿命的というか、ドラマティックな展開が欲しかったので、ミニマル的でありながら長めの構成です。それにしてもこのコード、スター〇ォースみたいで燃えますナ。冒頭でぼーびーと鳴るマッシブなフィルター音はボス起動のイメージですが、これが思いのほかイメージ通りに出来てよかったです。

event01

 美穂たちの活躍により敵軍勢は壊滅し、海王星上空基地はいつもの静謐を取り戻した。あとはぐっすり眠るだけ。百戦錬磨のトップエースといえども作戦初日は慣れないことも多く、歓迎パーティーでは疲労の色も拭えない。風呂上がりの火照った身体をベッドへ横たえれば、美穂はすぐにでも寝息を立ててしまいそうだった。
 しかし一つ気にかかる。タチアナはどこへ行ったのか。どこでなにをしているのだろう。気の合わないだけならまだよいが、彼女からはなにか、得体の知れない息差しを感じる。作為じみたあの慇懃さの裏にはきっと、よからぬ企みがあるに違いない。疲労を癒すつかの間の安息は透徹せず、海王星上空の清冽な空気には、わずかな憂いが淀むのだった……。
 ストリングスはいいですね。特にこういう大編成でのレガートなんかは、うっとりしちゃいます。とにかくストリングスだけの編成なのでいわゆる普通のハチロクヨンヨン+コントラバス2プルトをそのままトラック上に並べて演奏してます。以降のデモ曲もそうですが、実はこのストリングスはVSTiではなく、ハードシンセです。自分はもともとアナログライクな音を好む性質があって、特にこういう曲の場合、VSTiの完璧な音響よりも、ホールの残響や空気感が強めに感じられるようにアナログで接続したエフェクターでの出音のほうが好きだったりします。だってホントにクラシックとかホールで聴くと、弦一個一個の弓引きの音なんていちいち聴こえない。アーティキュレーションにもよるけれど、聴こえすぎるってのもなんだか嘘くさくなるもんですからね。
 ……あ、それって自分が上手に使えてないだけってハナシ?
pushpa

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 海王星基地で十分に翼を休めた美穂たち。ここから先は彼女たち四人による極秘作戦となり、太陽系を後にするその背を照らすのは、ダイソンソーラーから放たれる宇宙太陽光励起レーザーのわずかな残光と、基地に残された仲間たちの祈りのみ。メタンの雪が舞う闇のしじまはどこまでも黒く、しかし、やがて敵の機影が滲み出す……。
 AEDRA522Fは対消滅エンジンと縮退炉をそれぞれ二基搭載しており、それらが生成する莫大なエネルギーによって、広大無辺の宇宙を自在に飛び回ることができますが、しかしながらそれにも限界はあります。そこで登場するのがダイソンソーラーによる宇宙太陽光励起レーザーシステム。ダイソンソーラーとは、太陽から放射されるあらゆるエネルギーを最大限効率よく利用するために、太陽自体の周囲に巨大なソーラーパネルを張り巡らせるという、SFではもはやおなじみのエネルギー供給システムですが、ヴァルシュトレイの世界では、さらにこの宇宙太陽光励起レーザー放射システムというものを付加させ、太陽系内外のあらゆる人的領域へのエネルギー供給を速やか且つダイレクトに行っているという設定になっています。無論、真空である宇宙空間では、乱反射などでエネルギーが減衰する理由もなく、何光年の彼方にまで太陽の恩恵をもたらすことができるのですね。もちろん、美穂さんたちのゆく航路もこの励起レーザーに沿っており、だからこそエネルギー不足を気にせず、どこまでも飛んでゆけるのです。銀河鉄道999の空間軌道みたいなもんですかね。でもなぜ、それらの装置が太陽コロナの強烈な熱に焼き尽くされないのかと言えば、それは地磁気や磁力線凍結などの定理の応用技術を想定していますが、実はこれ、続編の最後に関することでもあるので今はヒミツです。つーか、本編にはあんまり関係ないのでこのへんで。

st05

 そこはまさに宇宙の墓場であった。見渡す限りに浮遊する無数の残骸は無辺際の闇の彼方にまで飛散し、AEDRAの放つレーザーの閃光に照らし出されては、酸鼻を極めたかつての戦火を眼前へと蘇らせる。ソローはこの悲劇の生き残りだ。多くの仲間を失い、二度とは見たくもなかったはずの光景に、不屈の闘争心が揺らぐのも仕方がなかった。
 当該作戦より六年前に起きたクリューガーの悲劇。敵の大軍勢の前に連邦宇宙軍が大敗を喫したことについては、オレリアさんが滔々と語っております。ゲーム音楽で暗澹としたイメージばかりを強く出すと、雰囲気が出るのはともかく、曲としてはいまいち面白くない……なんてことにもなりかねません。ましてやSTGでそれはよろしくなかろうということで、兢々としたイメージの前半と、わりと情感的なイメージの後半を合わせてあります。それにしても今のところ、太陽系とリギルケンタウリの間に、こんな暗黒星雲は観測されていませんが、極小規模の低温中性雲ということなら、実はあったりするんでしょうかね。
miho_shobon

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 当該作戦第二目標であるネメシス港はあろうことか、敵軍勢に占拠されていた。予期せぬ事態に困惑の体を突き合わせる美穂らをよそに、独り、訳知り顔のタチアナが動き出す。薄笑みを湛えた彼女の瞳が炯々として見据える本当の目的とはなにか。これはそれを暴くためにのみ行われる奪還作戦。なぜならば眼下の港にはもう、生存者など一人としていないのだから……。
 アルペジエーターとかって面白いんだけど、どれがいいのか選ぶだけで時間かかるし、これだと思っていても、時間を空けて聞いたりするとどうにもしっくりこないことが多いので、メモ書き以外にはあんまり使いません。いろいろ悩んだ末にアルペジオもシーケンスも自分で打ち込み直すことが多く、これなんかその最たるもので結局、それなりにめんどくさい思いをした気がします。楽はできませんね。思うに至便の飛び道具すぎて逆に、うまく使えてないんだと思います。弾いてるときはすっごく楽しいんですけどね。

event02

 案に違わなかったのは、生存者がいないところまでだった。亡骸の一つも見当たらないのはあにはからんや、すべてを破壊するためだけに存在する機械構造体に占拠されていながら、ネメシス自体は全くの無傷であったなど、これはどう考えたって平仄の合わないことである。やはりこの作戦はおかしい。疑念はタチアナのみならず、当該作戦の指揮統制に当たる統合軍司令部にまで及び、美穂らはもはや、なにを信ずるべきかもわからない。一寸先は闇。為すべきは一際の用心と慎重な行動でありこそすれ、タチアナを締め上げるのはまたの機会としておくべきだろう。そんなことをしては終わりが早まるだけだ。どちらが倒れたところで、真実には行き着けなくなるのだから。
 実はシネマティック音源というものをあんまり持ってなくて、OASYS88でそれらしい音を作るのにずいぶん苦労した思い出がありますね。自分はアナログライクなハードシンセ大好き人間ですが、こういうところは素直にVSTiのほうが楽ちんだと思います。そういうわけで今はもう、その手のライブラリたくさん持ってマス。
miho_monoomoi

st07

 16時間の休養を取った美穂たちは、統合軍司令部による作戦継続の命令に業を煮やしつつ、ネメシスを後にした。この異常な事態に看過を決め込む司令部のずさんさには甚だ遺憾だが、しかし引き返すつもりはない。彼らがタチアナと気脈を通じ、なにかよからぬ企みの一端を担っているのだとしたら、美穂たちは必ずそれを突き止め、糾さねばならないのだから。なにしろこれは地球の未来に関わる重大な作戦であり、先の見えないこの戦いに終止符を打つための大きな一歩なのである。なにより美穂は、己が目的のためにここへ来た。必ずヴァルシュトレイへ出向き、そこで巣食う敵を根絶やしにすることこそ、ヤツらにすべてを奪われた時分より胸に抱き続けた宿志である。その名分を汚すことなど、誰であろうと許さない。胸奥はふつふつとして怒気に淀み、さりとて見開かれた双眸は眼前の陸離たる宇宙へ凝らされる。ここはすでに人跡未踏の果て。もう誰も、後戻りはできない……。
  なにやらハービッグ・ハロー天体のようなものが見えるこのステージ。太陽とリギルケンタウリの間にこんな星形成領域があるのなら、地球からだってきっとよく見えちゃうはずですね。それも肉眼で。周囲の星間物質をこうも電離させてる強烈な紫外線など、地球にも大いに害をなす気がします。子供の時分、大人になる頃にはこんな宇宙へだって行けるようになってるだろう! なんて思ってたもんですが、そのうちそうもいかないことを知り、せめて写真だけでも~……と宇宙の本ばかりたくさん買ってもらっていましたね。おかげでそのころからちょっとした宇宙フリークです。行く末は博士か科学者かなどと揶揄われもしましたが、でも小五の時に近所のゲーセンでグラディ〇スと出会ったが最後、そんな親の淡い期待は完膚なきまでに打ち砕かれることとなったのでしたw
  閑話休題。陸離とは美しくきらめく様を言いますが、銀河や星雲などがまさにそれですね。いろんな物質が重なり合い、強烈な恒星風にあぶられて複雑怪奇な美しい光彩を放っている。そんなイメージでいろんなコードが次々に鳴り響くようにしてみたのですが、おかげでちょい、ループに悩みました。楽曲構成の多様化を極めた昨今と違い、一昔前のゲームミュージックにおいては、違和感のないループってとても大事だったのですヨ。

st08

 AEDRAのレーダーが謎の天体を補足した。各々の電波干渉計が結んだ像によると、それはおよそ8600億キロ先で人工的な波長の光を放つ、まるで機械の星なのだった。 この状況において、あってはならないもの。いよいよ常軌を逸する事態に、美穂たちの緊張は弥が上にも高まってゆく。
 高まっていくのは緊張だけでなく、このあたりからゲームの難易度も跳ね上がっていきますね。この面から現れるワープザコは厳しいですね。Ver.2.0からはそれこそ毛色の違う敵が 次から次に出てきますし、弾幕の厚さもいっそう増しております。まさに乱戦を余儀なくされること請け合い。でもこのゲーム、それもまた、逆転のチャンス。バリオンレーザ―始動のタイミ ング次第で思いもよらない大量得点を獲得できます。前シーケンスでのミスも、ここで巻き返せるかもしれないのはほかでもなく、不運にも失敗すると損失も倍増するってことでもあるので、 ランクインを狙う上ではヒジョーに大事な局面と言えなくもないわけですが。
miho_dum_it

st09

 この宇宙において、ありえない光景が眼下を埋め尽くしていた。レーダーによると、この機械の星は直径800km。どうしてこんなものが存在するのかはともかく、機械構造体の根城の一つであることは間違いない。即時撃滅が望ましいのは言うに及ばず、もはや作戦の体を為していない状況に困惑している暇などないのだった。まさに無数である敵軍勢を切り裂いて内部へ突入する美穂たち。全身には溶岩のごとき闘争心が充填され、死への恐れはただちに焼き尽くされる。かつてないほどに厳酷であろう戦いは今、幕を開けたばかり。
 これまでの流れとは打って変わって、わりとシネマティックというか、オーケストラ的なトラック構成です。いや、音は全然違いますよ? ジャンルに縛られてたら音つまんなくなるジャン?? ともあれ、なんかこう、敵の強大さとか、戦いの壮絶なイメージのほうを表現したかったんですねえ。自分はどちらかというと、オーケストレーション的なアプローチのほうがやりやすいのですけど、おかげでこの曲、一度も悩むことなく、数時間であっという間にできました! ……手抜きではないですぞ??

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 激戦の末に見えてきたヴァルシュトレイの秘密。それは誰にも想像し得ない、恐るべき事実だった。四百年の長きに亘るこの戦争は、いったいなんなのか。そしてこの顛末はどれほどまでに荒れ狂い、あとどれほどの犠牲を必要とするのか。思いもよらなかった現実に疑念と不安が糾われ、大渦となってはかわるがわるに押し寄せる。しかし、美穂は進まねばならなかった。これが強大な悪であるからこそ、その正体を見極め、必ず打ち滅ぼさねばならないのである。でなければ次は自分が嵐を起こすだろう。こんなクソまみれの現実に屈服するのは、なにもかもを失ったあの時と、なんら変わりがないのだから。そんな思いはもうこりごりだ。杳としてなにも見通せなどしないこの宇宙において、戦いの帰趨を決するのはいつだって、自分自身でしかない。
 重厚なストリングスによる編成で、海の波がごとくマイナーコードが押し寄せては引いていきます。自分の場合、不安に思うことって昔からほとんどないですね。年中仕事に追われて焦燥に駆られることはあっても、それはごく短期でどんどん解決していきますので、不安とか悩みとかとは違うんだと思います。そういう意味ではこの仕事っていいなあ~なんてずっと思っていますが、でもしんどいですね。ゲーム作るのってホントにしんどい。やりたいことがあればあるほど、仕事が次から次に増えていく。仕事の帰趨を決するのはまさに、自分自身だけ……。
aureria

st10

 ついにヴァルシュトレイ宙域へたどり着いた美穂たち。もはや肉眼でも確認できる渦の全容はあまりにも巨大で、暴戻なまでに強圧の威風を漂わせていた。電離したガスの光彩は想像以上に鮮烈で輝かしく、自分からすべてを奪い取った危難の元凶でありながら美穂はそこに、恍惚にも似た気持ちを禁じ得ないでいるのだった。ようやく会えた仇怨の敵。宿志は不抜の決意となって亜光速に乗り、目の前に立ちふさがるもののすべてを打ち砕く。果たすべき目的はすぐそこにある。もうふりかえる必要などない。
 前述の通り、当初1面の曲としても使えるように書いた曲ですが、上記メモのような10面のイメージばかりを膨らませすぎました。なんというか、自分的なSTG論では最終面間近にはやはり一曲くらい、メジャーコードをふんだんに使った盛り上がる曲が欲しいのです。ACグラⅡでいうところの最終面中ボスまでの曲のような位置づけですね。これが災いして自分にはもう、10面の曲としか思えなくなったのです! といってもこの曲、メジャーと断定できる部分はBメロだけで、あとはもう出だしから四度堆積和音によるメジャーともマイナーともつかぬ、ふんわり進行のオンパレードですね。Aメロだけで12種も組み込んでいたりします。四度体積は非常にベンリーですのでこの曲に限らず、あちらこちらで使用していますが、この手の曲なら循環コードとしても単純なので、へんに複雑でスカした感じには聞こえないのではないでしょうか。
 なにはともあれ、10面のイメージと美穂さんたちの不撓の気持ちを余すことなく表現できたと思っているこの曲、ヴァルシュトレイにおけるもう一つのメインテーマでもあります。

 

 STAGE10 EVENT DEMO MUSIC
 TITLE: STAGE10 EVENT DEMO     ■ダウンロード■

st11

 両の目を背けてでも信じたくはないこと。リギルケンタウリの上空20万キロには、果たしてそれが炳乎として存在していた。予てより感得していた異様さの正体。その顕現を以て疑惑のすべてが確信へと昇華し、その無慈悲な真相に美穂たちの心奥は激しく揺れる。一体なぜ、ここでこんなことが起きているのか、その理由は誰にもわからない。ただ一つ確かなのは、狂悖極まるこの恐ろしい事象を今すぐに制圧しなければならないということ。リギルケンタウリの激しいフレアと磁気嵐に翻弄されながら進む一行の脳裏には積年の思いが次々と蘇り、無情の現実ばかりが焦げ付いた瞳はかろうじて、渦の中心を見据えていた。あの向こうにはさらなる凶事が待ち受けていることだろう。きっと悪いことが起きるに違いない。そんな確信を胸のうちへ押し留める四人のAEDRAはやがて、吸い込まれるように渦の中へと消えて行く。
 ゲームもいよいよ大詰め! ということで、雰囲気重視のいかにもサントラ的な曲にしてみました。比較的ゆったりとしたキックにシネマティックなパーカッションが大音量で並行して、傲然たるリズムをボッカンボッカン叩いております。コード自体はメインテーマのThe Hurricane of the Varstrayと同じですが、ボイシングをだいぶ変えていますので意外とわかんないかも。いや、わかっちゃうか。工夫したのは中低音域のシーケンス。ブスブスっとした音で、こう、なんというか……感情がくすぶっているというか、仏頂面のイメージを表現したかったンですね。実に安易な発想だと自覚してますが、こういうことをストレートにやってみると案外、思い通りにいくもんです。全体的なこととしてはやはり、美穂さんたちの想いをトラックにちりばめた感がありますね。積怨と言えばちょっとばかりおどろおどろしいけど、あると思うんですよそういうの。不倶戴天の敵を目の前にしたら、誰でも復讐の念にとらわれて離れられなくなるというか、そのことだけに血道を注いできた人生のあらゆるシーンがめくるめく思い起こされたりもするのではないでしょうかね。そういう相手のいない自分も実際、このゲームのアップ時期には、10年にわたるいろんな苦難が思い起こされて実に、感慨深かったものです。みんなとここまでやってこられて自分は実に光栄でした……って、それは違うか。
miho_punsuka

st12

 渦を超えた一行を待ち受けていたもの。それを説明できる者など、ここにはいなかった。現実と呼ぶにはあまりにも非合理すぎる状況。人類の知り得る宇宙の真理においてありえないことであるのはほかでもなく、どれほど考えたところでなにひとつ理解の能わぬ眼前の光景に、美穂たちの胸はただただ、激しい動悸に高鳴るよりないのだった。
 ヴァルシュトレイの狂ひょう。それは人類の未来を飲み込む大嵐。これまでのどの神罰よりも凄絶で、どんな悪魔の所業よりも罪深く、そして酷烈たる理不尽な現実。その恐るべき先兵が、美穂たちの目前へと迫っていた。
 なんだかわからないもの。自分にとってその最たるものは真っ暗闇。なんにも見えないしなにが起こるのかもわからない。だから怖いと思うんですね。まあ、一番怖いのは虫なんですけど。おっと、最終面のライナーがこんなしょうもない話じゃ締まりません。
 表現したかったのは、覚悟の追いつかない焦燥。突然わけのわからない場所(それはゲームをやってのお楽しみ!)に放り出されて、美穂さんたちはとても焦ったと思うんです。もう帰れないとも思ったでしょう。それはもしかしたら、戦いで死ぬことよりも怖くて切ないのかもしれません。前の面とは打って変わってきらびやかな出だしを飾るアルペジオには心細げなシーケンスが加わり、全体的にはミニマル的となるコード進行はどこか物悲しげです。二種のキックによるボトムにはやがてメインとなる四つ打ちが合流し、合計三種のキックによる、わりとルーズなボトムラインは、みんなの動悸がシンクロしているような感じを表現しています。その上ではハット類が時の流れを刻々と刻んでおり、そして訪れる運命やいかに!? といった感じですね。
 決して抗うことのできない、なにか恐るべきものが近づいてきている。そんな雰囲気を感じ取って頂いたら幸いです。

End

 掉尾を飾るにはほど遠い結末。暴虐を極めた運命の続きは、生き残った一行の命をどう弄ぶのか。物語はまだ、終わらない……。
 これも構想があって、そのうち作り替えたいと思っていたりします。……え、だめ? そんなことゆわないでヤツヤさん! 作るならラスボスなんとかしろって? ぐう正論。言い訳するつもりはないけど、どうしたって最後で曲がボカボカ鳴るイメージじゃなかったのですよ。でも今はアイデアもありますし、いずれそうしたいとも思います……。
leontina

atogaki

 自分の場合、作曲に際してはなにか、込めるべきテーマやメッセージ性があったほうがやりやすく、例に違わなかった今回の仕事でも、そっちのほうを固めるのにだいぶ思考を巡らせました。物事というのは設計図ができてしまえば大抵、あとはただの作業となりますが、今回はそれなりにいろんなツールを使ったせいもあり、そのぶん手こずったところも多かったと記憶しています。日々の不勉強を嘆きつつ、あるいはライブラリのインスコに時間を取られ、それでも思うことのほとんどを詰め込ませていただいたこのヴァルシュトレイの楽曲、いかがでしたでしょうか。
 というわけでTo Be Continue。以上、拙文に長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございます! 次回はヴァル2とTW2でお会いしましょう。

さいなら!
miho_keirei